「番記者さん。長い間お世話になりました。今日は、最後のご挨拶にまいりました」
「先生。それが、そうもいかない状況になって来まして。おやっ、 そちらのお連れさんは」
「これは私の弟子で、龍之介と申します。最後なので、 ご挨拶にと連れてまいりました。これ、ご挨拶いたしなさい」
「拙者、二本気龍之介と申します。以後、お見知りおきを」
「へえ、辰先生にはお弟子さんがいらっしゃったのですか」
「ええ、まあ。口下手なのが玉にきずなんですが、最近じゃあ、 重賞予想は龍之介の方がよく当たります(笑)」
「そりゃあ驚いた。先生よりも的中率が良いんですか」
「ええ。こいつはまだ若いもので、 華やかなレースに憧れちゃいましてね。 師の教えである3歳未勝利戦には目もくれない(笑)」
「これは面白いことになりそうだ」
「何がですか」
「実は、こちらも客人が一人来てまして」
「ほほう。よこたんですか」
「いえいえ、客人というよりはむしろ刺客です」
「それは物騒な話だ。かかわらないうちに帰りましょう。さあ、 龍之介いきますよ」
「ちょっと待ったあ」
「ああ、紹介する前に出てきちゃいました」
「わては、さぶやん言いまして、 競馬予想に関してはちとうるさいんでっせ。 何しろ正真正銘の予想屋さかいな。 学者さんの予 想は所詮素人予想の域をでまへんな。その証拠に、 予想馬券が3連単でんがな。 3連単で累計収支をプラスにしようなんて、 プ ロの予想屋なら考えまへん」
「私はプロの予想屋ではありませんから構いませんが、 3連単の破壊力はプロと名乗る方ならご存知でしょう」
「もちろん、知ってまっせ。そのかわり、的中率が激低なのもね」
「そんなに低いとも思いませんが」
「そこでんがな。わてら予想屋の間でも、 辰予想は3連単の予想にしちゃあ当たりすぎる。 挙げ句の果てには、 プロの予想屋も 3連単を主流にしたほうがいいんじゃねえかって奴 まで出る始末」
「良いではないですか」
「あきまへんな。常勝競馬の基本は馬単でっせ。3連単なんて、 所詮素人の遊び。儲けることなんてできまへんのや」
「私はそうは思いませんが」
「そこでんがな。わてらの若い衆の中にも、 そんな不届きな奴らが出てきた。そこで、 わてが辰之進先生と勝負をして、 馬単こ そ最強ということを証明することになったというわけどす」
「なんと言われようと、私は重賞から身を引いたのです。 変な言いがかりをつけるのは止めてもらえませんか」
「ふん、腰抜けが」
「どこのどなたか存じませんが、 拙者の師匠を腰抜け呼ばわりするとは許せねえ」
「ほう、若けえの。許せねえなら、どないするってえんだい」
「師に成り代わり、拙者が勝負いたす」
「これ、龍之介。止めなさい。相手はプロの予想屋さんですよ。 いくら修行を積んだ身とはいえ、おまえにはまだ実践経験がない。 机上の 予想と、実際に馬券を買うこととは違うんですよ」
「お師匠さん、承知しております。しかし、 いずれは拙者も実践をせねばならぬ身。ここはひとつ、 拙者を信じて任せてはいただけないで しょうか」
「うむ、龍之介。おまえがそこまで言うのなら」
「面倒くさい師弟でんな。どっちでもよろしいでっせ。 わてと勝負する勇気があるんでっか」
「おのれ。言わせておけば不届き千万」
「若えの。威勢だけはよろしゅうおまんな」
「お師匠さん」
「よろしい。いずれ経験せねばならぬこと。 思う存分おやりなさい。ただし、 もし万が一破れるようなことがあれば、 一から3 歳未勝利戦の研究をするのですよ」
「ありがとうございます、お師匠さん。さあ、さぶやんとやら。 いざ、尋常に勝負でござる」
「いやあ、これは大変なことになってきてしまいました。 辰先生も、それでよろしいのですね」
「もちろん、異存はありません」
「ほな、ルールだけ決めときまひょうか」
「拙者は、いつ何時誰とでも、どんなルールでも逃げはせぬ」
「わてもよろしゅうおま。 ルールは番記者のだんなにお任せしまっせ」
「そうですか。任せていただけますか。辰先生もよろしいですね」
「ええ。かまいませんよ」
「それでは、ルールを発表致します。予算は1日につき、 重賞1レースにつき1万円。 2レースある日は5000円と15000円という 掛け方でもOK です。 そしてさぶやんと龍之介さんには重賞を予想していただきます」
「よろしゅうおま」
「承知いたした」
「そして、辰先生には」
「ははは。審判でも致しましょうか」
「とんでもありません。辰先生にも予想に参加していただきます」
「そんな。重賞予想は龍之介に任せます」
「はい。重賞予想はさぶやんVS龍之介さんです」
「では、私は審判を」
「いいえ、違います。私は、 かねがね先生のおっしゃる必勝法に大変興味を持っておりました」
「そうですか」
「そこで、 辰先生には同金額で好きなレースの予想をしていただきたいと思い ます」
「何と。重賞レースではなくても良いのですか」
「さぶやん、龍之介さんよろしいでしょうか」
「わてはかましまへんで。 もともと重賞の方が予想はしやすいんでな。先生とやら、 かえって不利な条件になってもうたんやないでっか」
「龍之介さんもよろしいでしょうか」
「お師匠さん越えは拙者の夢。異存などあろうはずがごさらぬ」
「辰先生はいかがですか」
「皆さん重賞レースを誤解しているようですね。 重賞とは見て楽しむもの。 稼ぐレースなら他にいくらでもあるのです。 龍之介 にもそれを思い知らす良いチャンス。 お引き受け致しましょう」
「わあ。これは凄いことになってきたぞ。 プロの予想屋さぶやん対辰先生の一番弟子龍之介さんが重賞レース で対決。それと同じ賭け金で 辰先生が必勝予想で勝負だ」
「番記者さん。勝負は1ヵ月のトータル収支でお願い致します」
「わかりました、先生。皆さん、それでよろしいですか」
「ああ、よろしゅうおま」
「望むところです」「では、4月3日よりスタートです。 予想はレース当日の9時までにお願い致します。それでは、 ファイト」
「これは私の弟子で、龍之介と申します。最後なので、
「拙者、二本気龍之介と申します。以後、お見知りおきを」
「へえ、辰先生にはお弟子さんがいらっしゃったのですか」
「ええ、まあ。口下手なのが玉にきずなんですが、最近じゃあ、
「そりゃあ驚いた。先生よりも的中率が良いんですか」
「ええ。こいつはまだ若いもので、
「これは面白いことになりそうだ」
「何がですか」
「実は、こちらも客人が一人来てまして」
「ほほう。よこたんですか」
「いえいえ、客人というよりはむしろ刺客です」
「それは物騒な話だ。かかわらないうちに帰りましょう。さあ、
「ちょっと待ったあ」
「ああ、紹介する前に出てきちゃいました」
「わては、さぶやん言いまして、
「私はプロの予想屋ではありませんから構いませんが、
「もちろん、知ってまっせ。そのかわり、的中率が激低なのもね」
「そんなに低いとも思いませんが」
「そこでんがな。わてら予想屋の間でも、
「良いではないですか」
「あきまへんな。常勝競馬の基本は馬単でっせ。3連単なんて、
「私はそうは思いませんが」
「そこでんがな。わてらの若い衆の中にも、
「なんと言われようと、私は重賞から身を引いたのです。
「ふん、腰抜けが」
「どこのどなたか存じませんが、
「ほう、若けえの。許せねえなら、どないするってえんだい」
「師に成り代わり、拙者が勝負いたす」
「これ、龍之介。止めなさい。相手はプロの予想屋さんですよ。
「お師匠さん、承知しております。しかし、
「うむ、龍之介。おまえがそこまで言うのなら」
「面倒くさい師弟でんな。どっちでもよろしいでっせ。
「おのれ。言わせておけば不届き千万」
「若えの。威勢だけはよろしゅうおまんな」
「お師匠さん」
「よろしい。いずれ経験せねばならぬこと。
「ありがとうございます、お師匠さん。さあ、さぶやんとやら。
「いやあ、これは大変なことになってきてしまいました。
「もちろん、異存はありません」
「ほな、ルールだけ決めときまひょうか」
「拙者は、いつ何時誰とでも、どんなルールでも逃げはせぬ」
「わてもよろしゅうおま。
「そうですか。任せていただけますか。辰先生もよろしいですね」
「ええ。かまいませんよ」
「それでは、ルールを発表致します。予算は1日につき、
「よろしゅうおま」
「承知いたした」
「そして、辰先生には」
「ははは。審判でも致しましょうか」
「とんでもありません。辰先生にも予想に参加していただきます」
「そんな。重賞予想は龍之介に任せます」
「はい。重賞予想はさぶやんVS龍之介さんです」
「では、私は審判を」
「いいえ、違います。私は、
「そうですか」
「そこで、
「何と。重賞レースではなくても良いのですか」
「さぶやん、龍之介さんよろしいでしょうか」
「わてはかましまへんで。
「龍之介さんもよろしいでしょうか」
「お師匠さん越えは拙者の夢。異存などあろうはずがごさらぬ」
「辰先生はいかがですか」
「皆さん重賞レースを誤解しているようですね。
「わあ。これは凄いことになってきたぞ。
「番記者さん。勝負は1ヵ月のトータル収支でお願い致します」
「わかりました、先生。皆さん、それでよろしいですか」
「ああ、よろしゅうおま」
「望むところです」「では、4月3日よりスタートです。